繊維リサイクル・製品製造

繊維リサイクルの歴史【018】安全保障とリサイクル

2010年、中国が日本に対するレアアース(希土類)の輸出を禁止するという騒ぎがあり、資源の多くを輸入に依存する我が国の脆弱性が改めて浮き彫りとなりました。

しかし、資源の多くを輸入に頼っているということは今に始まったことではありません。「繊維リサイクルの歴史【006】軍需景気で活況を呈するが」でもお話しましたとおり、戦時中における再生資源活用は国家レベルの課題でした。その後も、1973年、78年のオイルショック、近いところではつい数年前に天然ガスの供給元であるロシアとEUとの対立が激化した件など、資源確保がわが国の生命線であることを認識させる出来事は枚挙に暇がありませんでした。それにもかかわらず、不思議とそれらに対する危機感は、戦後史を通じ一貫して希薄であったといわざるを得ません。

冒頭の件で改めてリサイクル、つまり再生資源の活用を捉えなおしてみますと、それは1990年代以降注目されてきた環境保全としての意義だけでなく安全保障の面からも極めて重要であることが明らかとなります。再生資源を活用し、資源効率性を高めることは、わが国の危機管理面からより意識されて当然のことであるはずです。

これを繊維リサイクルに当てはめてみれば、日本の産業を裏方で支えているウエスや反毛フェルトなどのリサイクル商品をいかに活用するかということにつながります。「繊維リサイクルの歴史」をお読みの方はお気づきと思いますが、これらは繊維リサイクルの観点からも無視できない消費量であるばかりか、今なおわが国の基幹産業である自動車や鉄鋼などで欠くべからざる役割を担っています。もしこれらが活用されなければ、何らかの形で新たな資源を代替投入して補わなければなりません。資源の対外依存度はますます高くなるということになります。

もちろん、再生資源も元をただせば輸入に依存する資源ですから、再生資源の活用度を高めることが必ずしもこの問題に対し万能であるわけではありません。しかし、多少なりとも資源供給に何らかの障害が発生したとき、経済に与えるマイナスの波及効果を再生資源の活用が緩和することはできます。前回の「繊維リサイクルの歴史【017】再生資源価格の高騰と繊維リサイクル」で、原油価格の高騰がリサイクルウエス、フェルトへの回帰を生んだというお話をしましたが、これはまさに「原油価格の高騰」という危機の波及を再生資源が緩和した一現象でもあったのです。

「限りある資源を有効に使う」ということは、何か高いところに掲げた理想などではなく、われわれ日本人にとって常に隣り合わせの危機にどう対処するかという恒常的かつ重要な課題なのです。

リサイクル工場