繊維リサイクル・製品製造

繊維リサイクルの歴史【014】供給過剰によるリサイクルバランスの崩壊

90年代はリサイクルに対する関心がこれまでになく高まり、「循環型社会」形成に向けた法制度も次々に施行された時代でした。ところが「循環型社会」に最も適合するはずの故繊維を含む再生資源業界はなぜか世間の関心の高まりとは裏腹に未曾有の危機に直面しました。

その原因はぼろについて言えば繊維という素材が抱える独特の難しさもありましたが、より根本的な問題は従来型の産業構造と目指そうとする「循環型社会」とに大きなギャップがあり、そのギャップを埋めるための方策が不在であったことにありました。

ある社会システムが別のシステムに移行しようとするとき、移行にかかる費用(摩擦といってもいいかもしれません)が発生するのはある程度やむをえないことです。経済学の唱えるところでは、あるシステムから他のシステムへの移行は、移行費用が不可避であるとしても原則として市場の「見えざる手」によって社会的厚生を最大化する方向へ導かれるとされています。しかしながら循環型社会への移行とは従来の経済学でいう「外部不経済」を内部化する、すなわち伝統的な経済学が対象外としてきた新しいシステムを企図した動きであったため、市場メカニズムによる調整がうまく機能しない状態、すなわち「市場の失敗」を招く結果となったのです。 90年代後半から00年代初頭にかけて故繊維業界が直面した危機は、従来の景気循環による「不景気」といったものだけではなく「市場の失敗」が現出したある意味全く新しい形の危機であったといえます。

当時直面した課題は今後循環型社会形成を促進していく上で克服していかなければならないいくつかの重要な問題を含んでいますので、次回からは当時直面した具体的な課題について少し詳しくお話していきたいと思います。

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